「熊本県文化財保存活用大綱(素案)」へのパブリックコメント

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2020年12月28日、熊本県は「熊本県文化財保存活用大綱(素案)」をHPで公表し、県民からのパブリックコメントを募集しました。(*HPのイメージはこちら

公表された「概要」は下記の図にまとめられています。*「概要」のPDFはこちら

「素案」の全文は95ページありますので、PDFを参照ください。*文化財保存活用大綱(素案)のPDFはこちら

これに対して私たち熊本まちなみトラスト(以下KMT)では、理事全員にパブリックコメントへの対応を呼びかけました。様々な意見や協議を経て、KMTとしての意見と、冨士川事務局長の個人としての意見の2本を提出することにしました。

今回の「大綱」は、熊本県における将来の文化財の取り扱いの基本精神を示すものであり、大変重要だと考えます。皆さんも、これを機会に私たちが受け継いできた貴重な歴史を、どのように後世に語り継いでいくのか、考えてみませんか?

「熊本県文化財保存活用大綱(素案)」についての意見

NPO法人熊本まちなみトラスト
理事長 伊藤 重剛

「みんなでつくる大綱にする」という標語のもと、熊本県における文化財の保護、活用の基本的な方向性を示す「熊本県文化財保存活用大綱」に期待をしております。下記の視点を加味することにより、熊本県が目指す「県民との協働」の姿勢が明確になると考えますので、ご提案いたします。

P3-6の策定の過程については、市町村の文化財担当者や、有識者による策定委員会、文化財保護審議会などの多くの実務者と有識者の皆様の御議論の結果が反映されているとのことですので、どのような意見が出て、大綱にどのように反映されたのかを明らかにして、多くの方々の参加によってつくられたことを示したほうが大綱の信頼性が高まると思われます。

P14-15にありますとおり、文化財の保存活用のためには、行政当局だけではなく、文化財の所有者をはじめ、県民ひとりひとりが果たす役割、そして様々な活動を繰り広げている民間の力が重要です。P3に掲げている文化審議会の「文化財の確実な継承に向けたこれからの時代にふさわしい保存と活用の在り方について(第一次答申)」では、これからの時代にふさわしい文化財の継承のための具体的な方策の中で、「民間の推進主体になる団体の位置付け」として、「行政だけで完結するのではなく、各地域で活動する多様な民間団体が共に計画の推進主体となり、地域が一体となって取り組んでいくことがたいへん有効である」とあります。

P7に掲げる文化財保護法第 183 条の 2及び文化庁の「文化財保護法に基づく文化財保存活用大綱・文化財保存活用地域計画・保存活用計画の策定等に関する指針」(平成31年3月4日)では、文化財の保存活用に関する各種施策の推進主体として文化財保存活用支援団体について章を設けて記しています。

P47でこれまでも関係の深かった文化財保護協会や被災史料レスキューネットワーク、建築士会、樹木医会などを「関連する機関・団体等」として挙げていますが、文化財保存活用支援団体については「必要に応じて設置を促す」という記述にとどまっています。市町村が策定する地域計画の中で、「計画の趣旨に沿って活動する団体とパートナーシップを結ぶことができる仕組みを設けること」ができるよう、大綱の中で明示し、積極的に推進する姿勢を示すべきであると考えます。

民間の団体との協働のメリットは、行政にはない特性や社会的役割にあります。今後のよりよい文化財の保存と活用を目指すために既存の行政の枠組にさらに加えて様々な民間団体との協働を謳うことで、大綱の目的がより達せられると思います。

*この意見のPDFはこちら

熊本県文化財保存活用大綱(素案) に対する冨士川一裕の意見

各章ごとに意見を述べます。

第1章 大綱の位置付け等

P8 図6文化財の体系図(文化庁ホームページから引用)の中に「伝統的建造物群」の記載があるが、熊本県内には同文化財の地区指定は無い。

しかし、これに相当するかもしくは準じる地区、分散的ではあるが伝統的建造物がある程度の「群」を形成する地区が県内各地にある。熊本県ではこれらの文化財もこの大綱の対象とすることをこの図の注として入れるべきと思われる。P7には、「・・・・保護措置が図られている文化財(以下「指定文化財等」という。)のみならず、地域の中で大事に守られ一定の価値が認められるものも本大綱の対象とする。」とあるが、より明確に上記の記述を入れることを提案します。

【理由】
「伝統的建造物群」の指定の無い後進県、という認識が歴史的町並みに対する県民の諦めや無関心を促進している。このような意識の空洞化が実態としての町並みの空洞化よりもわが県の町並み保存の推進を阻んでいる。かかる意識の空洞化を防止するために、わが県も良質の町並みを保有していることを県民に意識づける必要がある。

第2章 大綱策定の背景と熊本県における文化財保護行政の現状

P13~
1 社会的背景
として「まちづくり機運の高まり」を一節設けることを提案します。

(1)少子高齢化による人口減少
という節だけでは、コミュニティを支える絆の希薄化という社会問題を表現するに至っておらず、
(3)SDG1)の視点と文化財を取り巻く関係者の拡がり
という節では、一般論としての課題認識にとどまっています。

熊本県下の各地域に目を凝らすと、コミュニティを支える絆の希薄化に対する危機感のなかでにコミュニティ活動を活発化させようという意欲ある地域住民の活動が見えます。

このような積極的な動きに対して文化財行政も対応することが求められており、そのような社会的背景を「まちづくり機運の高まり」という記述で挿入することを提案します。

(2)文化財への期待の高まりと外国人観光客、外国人労働者の増加
という節では、文化財の保護が財政的に厳しいので、観光による財源を得ようという意図だけが目立ち、地方が真に必要としている文化財の役割りを明確にするに至っていないように思えます。

(5)平成28年熊本地震及び令和2年7月豪雨
の節では、平成28年熊本地震の後創設された「平成28年熊本地震被災文化財等復旧復興補助金」の意義が十分に血肉化されていないように思われます。

この措置は、平時においては民間の経済力で維持管理していた言わば「草の根文化財」が大災害に見舞われたときには財政的に支援することで取り壊しから救出するということであった。これによって多くの未指定文化財が救出されたにとどまらず、地域のまちづくりを前進させ、文化財の裾野を広げることで文化財に対する地域住民の認識を引き寄せることができました。

このことに関しては4章、5章の一部とも連動します。

第4章文化財の保存・活用を図るために講ずる措置

-1文化財をまもる
P48
-(11)未指定文化財の保存の取り組み
では、
文化財は、地域の歴史やアイデンティティを語り、地域をつなぐ役割を果たすものである。未指定文化財もその一端を担うものであり、地域の文化財がこれからも保存、継承されていくよう文化財悉皆調査を実施するとともに、市町村に対して全国の取り組みの情報提供を進め相談に応じていく。例えば、熊本市では「郷土文化財」、菊池市では「菊池遺産」として認定制度を設けて地域の未指定文化財の認知向上と保存・活用の機運醸成が図られていることから、当該市の協力を得ながら取り組みの狙い、方法、課題等につき県内市町村との情報共有を行う。

なお、未指定文化財は災害時に廃棄されたり劣化が進んだりすることから、大規模災害時には県において被災文化財のレスキュー事業を行い、失われる未指定文化財の救出を図るとともに、被災した未指定文化財の復旧においては文化財の価値や地域をつなぐ役割等を踏まえて県からの支援を検討する。

という記述にとどまっています。ぜひ、「まちづくり」のなかに文化財を位置づけていただきたい。

第3章 文化財の保存・活用に関する基本的な方針

特に意見はありません。

第4章文化財の保存・活用を図るために講ずる措置
第5章県内の市町村への支援の方針

    1. 町並み(歴史的建造物)を通して郷土の歴史を学ぶフィールドサーベイを活動の一つとする。
    2. 生活環境の中に息づく文化財を守り育てることで、文化財の保護と生活環境の改善を同時に進める。
    3. 県内各地の生活環境の改善が文化財の保護と併進するイメージを定着させる。

ということを盛り込んでいただきたい。

第6章防災及び災害発生時の対応

    1. 平時に於いて生活環境の一部として文化財があることの認識を高めるとともに、被災後の生活環境を復旧する機運を高めるために文化財復旧への取組みが有効であるという認識を高める
    2. 災害発生後、命と(私有)財産と同等に真っ先に文化財の救出に取組む体制を整える。なぜならば、地域の文化財は命や財産を含む地域の歴史そのものである、という理由。また、災害発生直後には自然発生的に住民共助の組織が立ち上がるが、この中に文化財関係者を投入し、住民自らが復興ビジョンを描く力を支援することが求められる。
    3. 復旧期に於いては、住宅、インフラ、福祉、医療といった復旧復興の各分野を横断的につなぐ要素として地域の文化財を位置づけ、文化財を核にした地域の歴史を学ぶ場を各分野の復興計画に取り込む。

というような対応方策を盛り込んでいただきたい。

第7章文化財の保存・活用の推進体制

P87 図15の図中「文化財関連民間団体」の後に「NPO等」と加えていただきたい。

*この意見のPDFはこちら

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