後藤治先生を囲み 「歴史を活かしたまちづくり」 シンポジウム

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KMT2023年8月例会 記録

日時:2023(令和5)年8月27日(日)14:00~16:15
場所;PSオランジュリ(熊本市中央区中唐人町)
参加人数:32名(+取材新聞記者)

5月の例会では県内で歴史的文化遺産(地域遺産)を維持管理されている所有者等の交流会を開催しました。そこで提起された課題を掘り下げるために8月の例会では、後藤治先生を招いて地域遺産の継承についてシンポジウムを開催しました。

例会前半の後藤先生の講演では、熊本地震からの復興における歴史的建造物の救済という視点から地域遺産継承の隘路打開の方策を、八代市厚生会館の問題では近現代建築の保存隘路打開の方策をご提案いただきました。

後半の意見交換では、市民の愛着を育てながら地域遺産を使い続けることは地域が元気になる源であり、リノベーションという手法は持続可能な新しい建設投資のあり方であるというご指摘をいただきました。また、歴史まちづくり法に基づくまちづくりの有効性についても様々な角度からご教示いただきました。

1.後藤先生 講演
記憶の継承と地域遺産

「歴史を活かしたまちづくり」 工学院大学理事長・教授 後藤 治

添付資料PDF.(当日使用されたパワーポイント)

(1)テーマ解題

テーマ1:熊本地震 歴史的建造物の被災とその復興
被災後に多くの歴史的建造物が滅失した

●復興の手助けとなったものは・・・

①公的な支援(熊本県熊本市の助成 県民の努力)
②リストの作成(登録有形文化財/近代和風のリスト)
③市民・専門家による活動

●滅失を加速させたもの

①公費解体
②住宅に対する公的助成が改修よりも新築を重視されたこと
③罹災の判定が被害の大きさでの外観からの判断だったために地域文化を担う歴史的建造物が簡単になくなってしまう →残す必要がないという認識を広めてしまう(東日本大震災の際は歴史的建造物は少しの破損でも解体が決定された)

テーマ2:八代市厚生会館の問題 近現代建築の継承
危機に瀕する近現代建築の名作という評価(DOCOMOMO)

●継承の助けとなるもの

①市民の愛着
②歴史的、文化的価値(登録文化財、歴まち法 等)の検証

●継承を困難にさせているもの

① 施設の老朽化、陳腐化
②地方自治体の財政難(複数の建造物を壊して一つを残すと国の補助金制度)
→一番簡単な方法にいってしまっている。

(2)歴史を活かしたまちづくりはなぜ必要か?

歴史まちづくり法 地域における歴史的風致の維持及び向上に関する法律
多くの市町村が歴史まちづくり計画を策定(熊本県内では山鹿市、湯前町、熊本市)

●要件 国指定の文化財の存在

①要件の周辺に重点地区を定める→重点区域内での計画実施に国が支援
②重点区域内で歴史的風致形成建造物を指定し維持管理を支援
③歴史的風致維持向上支援法人の指定制度→活動の幅が広がる

●民間からの提案が保証される3つの法律制度

①歴まち法 (歴史的風致維持向上支援法人)
②景観法 (景観整備機構)
③文化財保護法 (文化財保存活用支援団体)
これらは行政に対して提案する権利が定められているものである。

□歴史的建造物の継承、歴史を生かしたまちづくりを行う理由

●もったいない  SDGs(持続可能性を高める)

国交省も不動産への 「ESG投資」(Environmental Social Governance )を重視

●古い建物のあるまちのほうが地域を豊かに元気にする

□コンパクトシティの提唱はまちがった話ではないが-

①コンパクトシティの取り組みとは→人口、施設の集約による効率化にある
②必要なのは集約化ではなく効率化である。しかし自治体は集約化が大事だと誤った認識をしている。(東京などの大都市ではコンパクトシティによる集約化が重視されるが規模の小さい地方地域では必ずしもコンパクトシティによる集約が効率化につながるとは限らない。)

□歴史まちづくりとは?

→20年後も地域が元気でいるために継続した長い取り組み、投資
成功しているところ、元気のあるところは「効果の連鎖」が発生

●経済や産業の視点で歴史文化を見直す

①経済産業における成功の歴史
②地域の資源(歴史的、文化的)・自然資源・天然資源を有効に活用する。
③資源の新しい利用方法を見つける。

「歴史・文化」=先人たちが残してきたもの、地域の資源
「自然」=地域資源そのもの

(参考)不動産分野のESG(環境・社会・企業統治)投資を呼び込む評価基準 国交省

①豊かな経済= サテライトオフィスの充実、空き家・空き店舗の利用
②魅力ある地域=歴史的・文化的価値のある建物の利用
昔のものを復元することだけが歴史的まちづくりではない。大事なのは現代の新しい手を加えながら輝いていた過去や現代の文化を見やすくすること。

●歴史的建造物の特能・性能を見直す

・長寿建築
・歴史的建造物のエネルギーロスの抑制効果
・歴史的建造物に使われている伝統的手法を多面的な側面から再評価する
・歴史的建造物やまちづくりは、保存よりもリノベーションを重視していくべき
(例)オランダの萱葺き新築建物(住宅のほかに庁舎なども)

●建造物の保存継承

①地域工務店、職人等の仕事の持続
②保存、継承は使い続けること。地域の産業、産品の持続。
歴史的まちづくりは古いものを残すより古いものや雰囲気に合うものを作る

<20世紀の住宅事情>

・愛着の持てない地域、人口減少、高齢化の問題などの重なり
・家やソーラーパネルによって地域の雰囲気を壊すことも

地域の風景に合った地産地消のまちづくりが大事。
被災地域の技術者、技能者による早期の対応が地域を守った。
例)新潟県中越地域地震からの復旧の速さ

2.オーディエンスとの意見交換

(1)八代市厚生会館の問題

(笠井/ホール再会を求める会)

厚生会館をなくして新しい施設を作ったほうが財政的にメリットが増えるため厚生会館をなくそうとしている。
厚生会館の運営条例が廃止された。
7月26日 厚生会館閉館
解体を見直す運動が行われている。

(丸山/ホール再会を求める会)

厚生会館は歴史が一番ある、教育の場でもあった。
厚生会館の調査結果や現状などの詳細が市民にはっきりと公開されない。
壊してしまったら取り返しがつかない。
今まで厚生会館にかかわってきた子供たちは大人の事情で閉館したらどう思うのだろうか。と考える。

(平山/PSオランジュリ)

今までの歴史や思い出の詰まった場所を壊してしまって、また作り直そうと思っても絶対に完全に作り直すことはできない。
壊してしまったら取り戻すことはできない。
技術などが現代より劣っていたとしても様々な歴史的なものが残されていた昔のほうが町は豊かだったと思う。
歴史的建造物を残していくのもだが、かっこよくなおしていくのもよい。熊本にはこのような建造物が多いと感じる。
新築でも新築ではないような雰囲気を作っていくことも大事。
文化を残しながら新しく発展させる。ビジネスを展開しないと地域は発展しない。今までの歴史や思い出を土台として新しいものを展開していくことが大事。

(冨士川/熊本まちなみトラスト)

地域の人々の意識を変えることも大事だと思う。
歴まち法は誰に伝えるとよいのか。

(後藤先生)

歴まち法は歴史的町並みのある地域しか設定できないと思っている人が多い
市に歴まち法の適用を訴えていく際にはメリットをたくさん出していくべき。
その地域の人々の生活を見て歴史を感じるのも大事。
(「自然観光」「歴史観光」に対して「生活観光」という考え方もある。)

(2)歴史まちづくり計画について

(後藤先生)

シャッター商店街のシャッターを上げさせてもらって許可をもらいその店のウィンドウを借りて飾り付けし、空き店舗だが営業しているような感じを出す。それだけでも雰囲気は豊かなほうへと変わる。
→ これによって企業も空き店舗を使おうと思うようになる。
教育委員会のみで歴史文化財の保護しか視野に入れていないまちづくりはうまくいかない。
→インフラ系(市街整備系)の局と協力するとうまくいっている。

(冨士川)

歯車は合わさっているが回り始める力がないため回り始めないケースが多い
→回り始めるための力がいい方向に働くか逆に働くかで発展の速度は著しく違う。しかし、歴まち法は回し始める力を持っている法律のようだ。

(粟田/熊本市都市デザイン課)

一つの局だけでなく、さまざまな局が合わさりあっていくことが大事。
→保存側と開発側の訴えを合わせるような局を作るとよい。
(どちらの意見も正しいので)

(坂田/文化財保存計画協会)

歴史的文化は先人が残した資源である。
「こんなものを残したい」だけでなく「これを活かしたら楽しそうだよね」を提案する。
もったいないを大事にしていきたい。

(後藤先生)

昔のものを保存するために保存地区にするわけではない。これからのものを作るのに古いものをベースにするために保存する。

(内田/西原村在住)

空き家などの使われていないものの今後の選択肢を市民はあまり知らない。
利活用法の選択肢を市民に知らせる。

(宮野/新古今社)

地震などの過去の出来事を契機として、マンションなど頑丈な建物を作るのは構わないが50年後に建物の需要がなくなった時、壊しにくい建物を将来どのようにして壊すのか、そのような建物が密集している町になってしまい人々はどうするのか。

(山野/サンワ工務店)

その地域のキーマン同士がつながっていくとよい。

3.後藤先生・・・追加

□ヨーロッパでは行われているが日本では行われていないもの

●歴史的な建造物を市が買ってまた、市民に売却。その差額を市の貯蓄やほかの物事に費やす。
→これは日本の空き家でも利用できる方法ではないか
●空き家特別措置法
空き家未満=自分はまだ管理ができるが次の世代ではわからない。当てがない。
今は管理されているが将来は管理ができない家をどうやって管理するか。
●大都市での地域の空き家の活用方法
大都市などで震災が起こった際に今住んでいる地域ではなく、実家のほうに避難してもらい、その地域の空き家をシェルターとして活用する方法もある。

焦って空き家を壊す必要はない。
地域や観光客に寄付をお願いすることも出来る。
→アメリカやヨーロッパで、空き家に「誰か寄付してくれませんか」 「今日からここがあなたの名前のギャラリーになります。」という看板を見かけたことがある。

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