「くまもとSDGsアワード2022」受賞報告

投稿日:

応募内容のPDFはこちら
応募の添付資料①のPDFはこちら
応募の添付資料②のPDFはこちら

先進的なSDGs(持続可能な開発目標)の取り組みを顕彰する「くまもとSDGsアワード2022」の表彰式が令和4年12月24日、熊本市の熊日本社であり、熊本まちなみトラストは「SDGs未来づくり部門」に入賞しました。

■応募者の基本情報

応募者名

熊本まちなみトラスト
取組の代表者 理事長 伊藤重剛
住 所 〒860--0078
熊本県 熊本市 中央区京町1-8-24
E-mail kumamoto-machinami-trust.org

法人、団体等の概要

当会は1986年任意団体「古町研究会」として創立、以来歴史的建造物や町並みの保存と利活用の運動を通じて熊本のまちづくりに関わってきた。1997年「熊本まちなみトラスト」と改称し、また2016年の熊本地震を機にNPO法人として登録、法人格を取得して組織的に活動を継続している。熊本市古町の旧第一銀行熊本支店、旧住友銀行熊本支店、清永本店の保存利活用などで、実績を上げてきた。会員は、建築・都市計画の専門技術者のほか、研究者、行政官、ジャーナリスト、市民など約60人で構成される。
事業者・団体等HP https://kumamoto-machinami-trust.org/

■取組みの概要

部門 ②くまもと未来づくり部門

取組みのタイトル:熊本における歴史的建築および町並みの保存利活用によるまちづくり
貢献するSDGsのゴール 11 12 13

取組みの概要

当会は、歴史的建造物や町並みについて、具体的な建物はもちろん旧家に残る歴史史料などを含め、これらを地域文化財ととらえ、町に関する「記憶の継承」を理念に、これらの保存と利活用を図りながら町づくりの活動を行なってきた。それは熊本という地域の文化とアイデンティティを守り、後世に継承していくことを目的としている。活動は単に保存運動のみならず、マスコミでの広報活動、シンポや講演会活動など、広範に行なっている。
取組みの概要がわかるHP、SNS https://kumamoto-machinami-trust.org/

■取組みの内容

背景・課題

戦後の高度成長時代、日本社会の発展が経済原理でのみ動いてきた結果、各地で古い建築や町並みが壊されてきた。熊本では、国指定文化財の熊本城自体は石垣を含め保護・保存されてきたが、周囲の城下町の古町や新町に残されてきた町屋とその町並みはほぼ消滅しつつある。これらは特に1960~70年代に多くが失われ、さらに2016年の熊本地震による被害でさらに失われた。また明治以降の近代化を担ってきた優れた洋風建築も市内各所に建てられてきたが、これらも老朽化を理由にその多くが壊されてきた。
建築や町並みは、経済や社会の変遷に合わせ新陳代謝を繰り返すものである。しかし歴史的に価値のあるものは保存すべきであり、時代のニーズに対応するよう変化させながら、利活用して継承していく必要がある。その理由は、人はその地域の歴史と伝統によって、その地域の人間としてのアイデンティティを形成できるからで、建築や町並みはそのための大きな要素だからである。
課題は、こうした歴史的建造物の保存と利活用がまだまだ社会の共通理解として完全には浸透していないことである。したがって、今後も運動を展開しながら保存活用の事例を蓄積し、そのことが経済的にも十分成り立ち、市民が町の記憶を継承し、市民としてのアイデンティティを形成し、自分の町に誇りを持つことができるように、支援活動をしていく。
このことは、SDGsの第11目標「住み続けられるまちづくり」に直接的に関わるものである。

目指す姿

最終目的は、町が経済的発展と同時に、歴史的建造物や町並みを地域遺産として保存しながら、地域遺産と文化を継承し、地域のアイデンティを保持しながら緩やかに発展することを支援することである。地域の経済的発展と地域文化の継承は、決して相反するものではなく、両立しうるものである。例えばパリは優れた歴史的建造物の残るヨーロッパ屈指の都市であるが、市民もこれに誇りをもち、またこれによる観光あるいは芸術活動を糧として経済的にも十分成り立っているのである。熊本は勿論パリとは違うが、熊本城を中心とする歴史的な町並みや建築を保存活用しながら、同時に優れた近代建築を創出し、歴史性のある重層的な町として継続的に発展することは可能である。当会では、熊本を経済的かつ機能的に満足した単に住みやすい町ではなく、歴史と伝統を感じることのできる「住みがいのある町」になることを目指している。
当会は1986年の発足で、SDGsが提唱された2015年よりも前に活動を開始したが、その理念はSDGsの一部の理念と共通している。その理念は、建築そのものの価値そしてその歴史的価値を保存しようということであるが、単純には古い価値ある建物を壊さず長持ちさせて使おうという、日本古来の「もったいない」という考えとも共通する。そして資源やエネルギーの無駄使いをなくし、結果的に地球環境を保護し、それは持続可能な社会の実現を目指すというSDGSの理念と一致する。

取組内容

1)歴史的建造物及び町並みの保存と利活用の推進。

当会は発足以来、熊本市の歴史的建造物及び町並みの保存と利活用の活動を、所有者に働きかけあるいは広く社会に訴えながら行なってきた。例えば古町の清永本店は熊本震災で大きな被害を受け、取り壊しの危機にあったが、補助金申請の支援をし、2020年に無事保存と利活用を実現させた。同じく古町の旧第一銀行熊本支店(レンガ造一部RC造、1919年)は売却してマンション建設予定であったが、当会が仲介して現PSオランジュリに再生させ、同様に旧住友銀行熊本支店(RC造、1934年)も現カリーノMSビルとして再生させた。こうした建物は保存修復の後、経済的に成り立たせるため、利活用の仕方も提案していく。

2)補修を要する未指定文化財に対する技術的支援と助言

例えば熊本城のような国や市町村で文化財に指定された歴史的建造物は、法的に保護されるので問題はない。しかし古い歴史的建物として市民に親しまれているような建物でも、文化財に指定されていない建物(ここでは未指定文化財と呼ぶ)は、公的保護の対象とならない。町中で見る古い民家などの建物は群として歴史的町並みを形成している場合も少なくない。このような場合、所有者は保存したくとも資金や技術の問題で、その方法が分からず困っており、また不安を抱えている。当会では、会員である専門の技術者が調査し助言を与え、また必要なら補助金の獲得などの支援を行なう。

3)歴史的建築保存を通じたまちづくりに関する市民への広報活動

当会のこうした活動には市民の理解が不可欠である。したがって歴史的建造物や町並みを保存することの意味、そのまちづくりへ効用、地域への経済的効果、地域住民としてのアイデンティの醸成などに、大きく役立つことを広報しなければならない。当会では、これまでもそのために、講演会、シンポジウム、見学会、まちづくりイベント、新聞紙上などでの提言など、数多くの市民向け活動を行なってきたし、これからも継続していく。

4)上記に基づく新しい熊本のまちづくりへの参加

当会は、これまでの実績を評価されて、熊本市が主導する歴史的風致維持向上計画(くまもと歴史まちづくり計画)の支援する市民団体として登録されている。したがって、熊本市あるいは他の団体と積極的に協力しながら、新しい熊本のまちづくりに積極的に参加していく。

取組みの特徴

普遍性

都市や地域は、それぞれの歴史と伝統に基づく特性を持っており、当然ながらこれは物理的には建築や町並みとして現れる。しかしながら、明治以降特に戦後の高度成長時代に、建築における近代主義により、一方で経済発展をもたらしながらも、個性をなくし画一的な都市ないし地域になり果ててしまった。しかし経済的発展を維持しながら、いかに地域のアイデンティティを護るか、これは日本あるいは世界のどこにも共通の問題である。
特に現在の日本は高度成長の後の成熟社会となり、またその結果として高齢社会となった今、高齢者が過去の記憶を回想できる町、若者がレトロなものをベースに新しい創造的な空間にリニューアルできる町を作る活動は、今後、継続・発展が期待できるし、実際に熊本の新町古町ではその胎動が始まっている。

包摂性

上に述べた未指定文化財の所有者には、高齢者が多く、保存利活用する意志はあるにしても、改修するには経済的困難を伴う人は多く、技術的な解決法が分からないため、あきらめる人は多い。特に2016年の熊本地震で古い民家に被害を受けた人たちに多かった。当会の活動は、そのようないわば保存活用の点で社会的弱者となっている人たちのために、補助金申請や技術的助言などの支援を行なっている。熊本市唐人町の清永本店がこの好例で、所有者の老夫婦は取り壊しも考えたが、当会の尽力でワールドモニュメント財団などの助成金申請の支援をし、修復にも技術的を行ない、最終的に保存活用ができた。
しかしやむなく壊された建物も多く、熊本市鍛冶屋町の森本表具店の場合、建物正面の一部島田美術館に移築再現し、熊本に残る近世町屋の店頭の様式を再現することができた。また同じく大正時代の洋風木造建築であった中村小児科医院では、一部の建具をケーキ店の店舗に再利用した。

協働性

当会の活動は、地域遺産となる建物の所有者、古い町並みをもつ地区住民はもちろん地区地元自治協議会、商工会議所、そして行政を管轄する公共団体に直接的な関わりなしには、活動は成り立たない。所有者や住民は、そこで家業などの企業活動を行ない、生活の資を得る生業を行なっており、その経済活動を無視しては活動できない。そしてこのようなまちづくりの活動には、建築家や都市計画家の専門家とともに、それを実行する建設業者、行政官などが深く関係する。さらにはまた、文化財の専門家や研究者など幅広い分野からの協同作業が必要となるのである。

統合性

当会の活動は、直接的にはSDGs目標11の「都市を包括的、安全、レジリエントかつ持続可能にする」に資する。それは歴史的建造物や町並みを保存しながら、新しいまちづくりを目指すためには、建築や都市計画の分野はもちろん、歴史や文化、経済や住民福祉、さらに防災が関係するので、都市の様々な要素をトータルに考察して進めることが必須だからである。
また間接的には、SDGs目標12の「持続可能な消費と生産のパターンを確保する」、SDGs目標13の「気候変動に具体的な対策を」、にも関係する。というのは、日本の歴史的建築の多くは木造建築であるが、これらを壊して新築するのではなく、保存して再利用することは、木材資源を有効利用することを意味している。徒に老朽化を理由に古いものを壊すことは産業廃棄物を増加させ、その処理で温室効果ガスを排出することになる。また輸入材で新築することは森林資源の枯渇へ拍車をかけ、地球環境に負荷をかけ、気候変動に少なからず影響を与えることにもなる。これは木造建築だけの問題ではなく、鉄筋コンクリート造でも同じで、建築を保存して再利用することが、産業廃棄物の量を減少させ、環境負荷を減少させるのである。ちなみに、会員の建築家である古田保は、明確にこの理念で木造による建築活動を行ない、2021年の荒木精之賞を受賞している。
このように、歴史的建造物を保存することは、単に文化的価値の保存と継承をするだけにとどまらず、しかも広く国内外の経済、社会、環境の問題と大きく関わりをもっている。

透明性

その時々の活動内容については、随時ホームページで公表している。また機関紙「まちなみトラスト」を年2回発行し、会員その他に配布している。
理事会を隔月で開催し活動内容を皆で検討し記録に残し、またイベント等の開催後は理事会で評価を行ない、これも記録に残し活動の深化を図っている。また2022年秋には、25周年記念のシンポジウム及び展覧会と、これまでの活動をまとめた報告書の作成を企画中で、これまでの活動を広く社会に公表する予定である。

■今後の展望

当会は、歴史的建築を保存利活用して町づくりを行なっていこうという活動を、長く地道に行なってきたので、世間にある程度普及してきたものの、まだまだ一般に深く浸透しているとは言い難い。その証拠に熊本地震被害を受けた文化財指定のない古い民家などは、公費解体の名目でかなり多くが取り壊された。今後も活動を通じて実際の保存利活用の実例を蓄積することにより、歴史的建築の価値を市民に体感してもらい、それがまた経済的にも成り立つことを示すことによって、当会の考えを益々市民に普及していきたい。
今後の課題としては、これまで以上に県内外のまちづくり団体、あるいは違う分野の団体などと交流を図っていき、活動に多様性を持たせたい。また会員が高齢化しつつあるため会員の若返りが急務で、若い会員を募り、会の世代交代を図りながら、当会の理念を将来に向けて継承していきたい。

■参考資料の添付

資料 2 枚
① 添付資料1トラストの活動と受賞
② 添付資料2トラスト活動報告

-お知らせ, まちなみトラストについて

Copyright© NPO法人 熊本まちなみトラスト , 2024 AllRights Reserved Powered by AFFINGER4.