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日時:1月28日(土)13:30〜15:30
場所:熊本大学工学部1号館4階
講師:星野裕司准教授
参加者:会員10人/会員外10人 合計20人
熊本まちなみトラスト1月例会は星野裕司さんの近著『自然 災害と土木-デザイン』の講義でした。外気のキビシイ寒さはかえって講演会場をヒートアップさせたようです。同書籍は著者割引で販売され、用意された12冊は完売した。
◆(竹田副理事長/例会担当)開会のあいさつと参加者への謝辞
(冨士川事務局長)本会の企画について一言
◆講演概要(講演者の意図した筋たて)
1.ご本人のプロフィール
2.著書の大枠
第1部 序章・1章 土木についての基本的な考え、考え方
第2部 2~3章 事例、実践例 本日は白川・緑の区間を中心に
第3部 5章・終章 土木デザインの哲学的考察と今後
3.質疑・意見交換
講演記録
1.ご本人のプロフィール
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- 市民が横浜市に寄附した畑公園
- 父親が70歳くらいで造園業親方をしていた時の仕事
- 群馬県沼田市の祖父の家 戦後の開拓農家だった
- 父の代で東京近郊へ移住し造園業を営む
- 自分はそこで育った 土と離れないことを大事にするようになった
2.著書の大枠とその中核をなす実践例のなかの白川・緑の区間について
(1)話の前提
- カタイ土木構築物からこぼれてしまう価値を拾い集めるのがデザイン
- 成功した土木デザインとはデクノボーのようなもの、目立たない存在
- 軽井沢の別荘(設計:吉村順三)にみる建築デザインの完結性
- 土木は空間的にも時間的にも非自己完結的
- 1997河川法改正により、環境を保全するとことが入り、段階的整備や国は基本方針を示し計画は地方で立てる・・・などの新しい考え方が生まれた
- 非完結的な長いプロセスの最後の仕上げがデザインであると同時に未来へ向けたスターターなのかなと思う
- 建築分野と共通するがほとんどの土木の仕事は『リノベーション』なのではないか
(2)白川・緑の区間Projectについて
- さまざまな議論、曲折を経て実施設計の段階に至った 立田山への流軸景観
- 段階的な(計画流量)目標と整備の考え方
- 護岸用壁のトップ、人に接する部分を自然石(ナベタ石)の仕上げに
- 側道の歩道と車道の間を緩やかな傾斜の緑地に
- 大樹の移植・・・生育しやすい環境を整えることを中心に考えて
- Ⅰ工区、Ⅱ工区、Ⅲ工区のなかでは経験の乏しかったⅠ工区は下手だった
- 水際の□ブロックの高低・隙間はランダムに水位の変化に対して「今日は昨日よりたくさん見えているな」とか・・・
- 地元グループ『白川バンクス』のかかわり
- 独自の事業スキームを構築した
- イベントが活発化した
- 段階的な嵩上げ(1.5m)で新たな議論を起こしているが、オールオアナッシングではなく、嵩上げしても夜市はやりやすく、とか、夜でも散歩をしやすく、などの新たな提案も出ている
- 竜神橋区間への応用
(3)土木デザインの哲学的考察と今後
- 真理(アレーティア=非ず(ア)+レーテー(隠す(伏蔵・隠蔽))→開蔵
- 技術とはモノを創る手段のことではなく、隠されたものを掘り出すこと→開蔵
- 国家の自然観(事前に挑発する文明)と民衆の自然観(自然を受け入れる文化)
- 運慶の仁王像に見る制作(ポイエーシス)としての『開蔵』
原木のなかに眠っている造形を掘り出している - 曽木の滝分水路に見る製作(ポイエーシス)としての『開蔵』
ダイナマイト爆破の後、岩壁にブラッシングすることで顕わになった自然の原型 - 白川・緑の区間Projectに見る制作(ポイエーシス)としての『開蔵』
労わる、手入れする、憩う、遊ぶといった行為から生まれる
かかわりあいをいかに増やしていくか
3.質疑・意見交換
(1)『挑発』をめぐって(田中尚人の提起)
- P16の図:3つの輪にある矢印は双方向なのではないか?
- P13左下の図(阿賀野川水系縦断図)・・たくさんのダムと発電所は主として東京圏に電力を供給している。因みに川沿いに走る列車はディーゼル、という皮肉。あくまで人間が自然に対して「ちょっかいを出している」という状況を示すのが『挑発』(だからやはり矢印は一方向)
- 一方、下の矢印はどうか?・・・自然のめぐみを受け入れる、あるいは自然に寄り添ってかかわりあう、という状況(ポイエーシス)を示すので双方向の方が良いかもしれない
(2)現実の土木設計の現場でポイエーシスを成立させる条件(豊永の提起)
- 白川・緑の区間Projectや曽木の滝分水路に見る製作(ポイエーシス)を可能にするのには、どうしたらよいのか?
- 少なくとも、その方向でという意識はずいぶん浸透してきたが(多自然工法など)現場の決定プロセスでは必ずしもそうならないことが多い。
- 時間がかかるのかな。
(3)どれくらい一般化しているのか?(伊藤の提起)
- 委員会での委員の関わり方で方向が変わることは大いにある。
- 委員会や協議会方式は一般化しているから、事業スキームが重要
- トラストの活動とも共鳴するが、きちんとした哲学が浸透していくともっといい街や地域になっていくと思う
- そのような方法(ポイエーシス)をやれたらやりたいという行政の人は増えてきていると思う、取組まなくてよいという人は少なくなった
(4)地盤設計の専門家だが・・・(田上の提起)
- デザインがいいと機能面もよい。景観のよい道路は走りやすいと思う結果的にそのようなことはあると思う
- エンジニアが構造設計をやったとデザイナーが意匠を担当するとよくない、
エンジニアとデザイナーがはじめから一緒にやることが大切
(5)日本の原風景を取り戻したい(中澤の提起)
- ウナギがすめるような護岸づくりを期待したいが
- 国も多自然川づくりを基本戦略としている
- 技術、計算できないとどうしても従来工法になってしまうが、
- 山に樹を植えることも含めた『流域治水』の考え方もだいぶ指示されるようになった
- 期待したい
閉会とお知らせ(竹田副理事長)
- 1月31日(火)@市民会館大会議室「熊本の町並み変遷についての講演会」講師;伊藤重剛KMT理事長 のお知らせ(熊本市都市デザイン課から)
- 次のKMT3月例会は3月18日(土)の予定