熊本まちなみトラストが展示した「平成28年熊本地震復興タイムライン」
1日目レポート ( 冨士川一裕 ) 2018年9月8日(土)
会場の九州大学箱崎キャンパスには保存されることが決まったいくつかの近代建築があるが、その一つ旧工学部本館(1930/S5建設)大講義室で開会式が開かれ、続いて日本都市計画家協会賞の授賞式、基調講演、フォーラム等が開かれた。
「点在する歴史的文化遺産をまちづくりに活かす」のセッション
九大・箕浦先生による標記の問題提起によるフォーラムは、ご当地箱崎宮宮司さんの基調講演の後、太宰府市職員からの報告が注目された。
文化財とは日々の生活と未来の生活を豊かにするものである、という考えから文化遺産の裾野を思い切り広げた「市民遺産」という概念を設定。法的保護を前提とする文化財とは異なり市民が自発的に登録し、その登録リストを「文化遺産情報」として広報し、市民や事業者はそのリストを「見る義務」があることを景観条例に盛り込んだ、という発表であった。
2日目レポート ( 辻 泰明 ) 2018年9月9日(日)
10:00~12:00
「観光からはじまる景観づくり」のセッション
座長:高尾忠志(九州大学)
内田晃(北九州市立大学):「日本型フットパスのランブリング」について
- 美里町のフットパス,中間市のなかまフットパスを事例紹介
- フットパスと他の着地型観光の違いは,風景の裏にある地域の営みを見(魅)せること
- 交流人口の獲得という意味では「観光」,地域を元気にするという意味では「地域活性化」
→自分たちの素朴な風景を維持する行為が「景観づくり」 - フットパスには,閉鎖的なまちをオープンなまちにする働きがある
- 参加者の多様な価値観が交錯するときに豊かな価値観が生まれる
- 思いだけでは続かないので,持続可能性のために経済に還元する仕組みづくりも必要
吉中美保子(西鉄):来春導入予定の観光列車「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO」について
- 調理車1両を含む3両編成で,天神・大牟田間に来春導入予定
- 観光列車の開発費用(約5億円/3両編成)は,運賃収入だけではとてもペイできない
- 観光列車が観光資源・情報発信媒体となり,提供する料理や観光ツアーの開発で地域資源の発掘も同時に行うことで,沿線地域の活性化・価値向上に資することが目的
- 観光列車の導入事例が増えており,全国で100以上の事例がある
- 車窓からの景観が日常と違って見える,列車に向けて風景が作られる,列車が風景になる
高山美佳(LOCAL&DESIGN):「ローカルアートデザイン,久留米まち旅博覧会」について
- バブル時代のデベロッパーに勤め,久留米市田主丸のぶどう農家に嫁いで今の仕事を起業
- JAにぶどう1房160円で買い取られること,合併特例債での道路整備に疑問を感じた
- 地元が地元を知るための着地型プログラム「久留米まち旅博覧会」を企画
- 風景と物語を縦横に編むことで街が成熟する
- 公式ガイドブックの紙媒体にすることで,街の記憶が目に見える形で残る
辻の所感
- 「三角再発見」の直後の聴講で,リンクするところが多かった
- 参加者の多様な価値観が交錯し,東港を歩く行為で地域の営みが見えていたと振り返る
- 「A列車で行こう」は片道40分,西鉄の天神・大牟田間特急所要時間60分で満足感は?
- 個人の思いだけでは維持困難な「景観」という公共財を,いかに経済に還元していくかという部分で,今,直面している辻医院の保存・活用に関する課題に通じるものを感じた
13:00~13:30
「交通とまちづくり」のセッション
中村宏(福山コンサルタント):福岡の交通史130年について概説
- 柴田祐先生のセッションのうち,熊本地震に関する話題提供の時間帯分こちらを聴講した
- 交通史をもってまちの歴史を語る参考になった
13:30~15:20
「熊本地震と九州北部豪雨から考える地区レベルの復興」
座長:柴田祐(熊本県立大)
宮田有佳(益城町役場復興整備課):「益城町における集落部の復興まちづくり」について
- 福祉,広報などを歴任し,まちづくりについては何もわからない中で配属された
- 協議会の場に顔を出し,その場にいることに意味があると足を運ぶ毎日
- 各協議会で新たなリーダー,キーマンが生まれ,新しい形の地区のつながりができた
- まち協をどう位置づけるか,協議会によっての温度差,個人のつながりから組織同士のつながりをどう構築していくかが今後の課題
古庄直樹(櫛島地区まち協会長):「櫛島地区における復興まちづくり」について
- 発災時から,消防団に携わり活躍していたことが新聞でも報道された
- 当初,島田地区(櫛島・東無田・下原)の枠組でまち協設立したが,地区ごとの状況,意見に違いがあり違和感を感じるようになったことから,各地区で独立した
- 平成29年夏に石巻蛤浜を訪問し被災地同士の交流が生まれ,県立大柴田研が支援
- まちづくりニュースの発行,伝統行事の千灯明,お花見の復活,新たに水あかりを実施
- 主要メンバーの転勤で担い手の問題も生じており,まちづくりに対する住民の関心向上,地区自治会の立て直しなど課題は多い
- 他のまち協との連携や町外の地区との交流,いただいたご恩の恩送りに取り組みながら,子育て世代が住みやすい街にしたい
梅田功(朝倉市復興推進室):「朝倉市の九州北部豪雨被災後の復興まちづくり」について
- 新庁舎建設に携わっており,広島の業者と会議を予定していた日に744mm/9時間の雨
- 33人死亡,2人行方不明.職員9人,サポート4人の体制で復興支援室を運営
- 被災8地区にまち協を立ち上げ,住まいとコミュニティの再生を図っている
- 農地の査定漏れで約15億の財政負担増が生じ,市の基金も底をついている厳しい情勢
- 支え合いセンターが孤独死対策,経済支援のため市内外に避難する見守り世帯を巡視
- 市外避難者でまだ住民票を移動していない世帯も多く,将来的な人口減は避けられない
師岡知弘(朝倉市集落支援員):「朝倉市黒川地区の復興まちづくり」について
- 過疎・高齢化の進行した山間集落で,2集落は長期避難区域,人口は半分以下に減少
- 山には生活に必要なものがそろっており,山は失いたくないという人がいる一方で,山で育った若い世代が便利な都会に憧れ,山から早く下りたいと思っている現実もある
- 都市部から山に憧れる人とつながり,いかに呼び込むかと考えている
- 災害は過去を清算し,新たにスタートするきっかけ
15:30~16:20
「人が集まる場所のつくり方」
- 先週視察した,油津応援団の木藤さんもパネリストの一人を務めたセッション
- 福岡出身,佐賀県多久市に移住して現代美術・ボンドアートに取り組む冨永ボンド氏
- 福岡のまちなかで活動する「福岡ピクニッククラブ」を主宰する片田恵由佳氏
- 午前中に,片田江氏と「まちビトトーク」のセッションを担当した三谷繭子氏
- 大船渡駅前,津波復興拠点整備事業区域の商業エリア「キャッセン大船渡」の臂徹氏
- 「水都大阪」2011年以降を担う山崎亮ら4人のディレクターの一人,泉英明氏にぎわいづくりが,にぎやかしにならないようにするには?
冨永:「人口の少ない街では,日にちを決めてその日には集まれるように活動すること」
泉 :「はじめから広げすぎず,小さな関係作りから取り組むと良い」
三谷:「街にピッタリの人ばかりではない.自分が楽しめることで,まわりを巻き込んでいくことが大事.どこかでつながると連鎖が生まれる」
木藤:「応援の連鎖もある.自分は応援されやすい顔だった.自分のキャリアデザインの中に油津がある。契約が切れた今,これまでとは違った付き合い方に」